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選評  出版関係物故者  放送関係物故者

対象作品は発表された年ではなく、サイト主宰者が実際に目にした年のものとしています。



部門ノミネート作品ベスト作品
図書部門 小説の部 「功名が辻」「無痛」 「無痛」
漫画の部 「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」「うつうつひでお日記」 該当作なし
映像部門 映画の部 「LIMIT OF LOVE 海猿」「博士の愛した数式」「明日の記憶」「椿山課長の七日間」 該当作なし
テレビドラマの部 「風林火山」「華麗なる一族」「ハゲタカ」「わたしたちの教科書」「私は貝になりたい」「3年B組金八先生」「点と線」 該当作なし
アニメーションの部 「ちびまる子ちゃん」「クレヨンしんちゃん」 該当作なし

2007年選評

与志田選2007年総括。小説では昨年に続き、久坂部羊が強烈な印象を残しました。映画のノミネート作品は意外にも邦画ばかり。そういえば昨今、洋画がいまひとつです。例えば『ダイ・ハード4.0』にしてもつまらなくはないけど、いまさらって印象がぬぐえませんでしたし…。なお映画とテレビドラマはあらためてそのタイトルを見返してみると、ほとんどが原作つきですね。( 08/01/10 )

<図書部門>
『無痛』(久坂部羊・幻冬舎刊)
「この作者の頭の中はいったいどうなってるんだ」と思わせる今回も凄みのある作品です。前二作は小説として各所にまだぎこちなさが見受けられましたが、3作目にいたって書き手としても手馴れてきた感じでページをめくる手が止まりません。その医学的知識によって描かれる戦慄のシーンはまさに圧巻。かつて乱歩がグロテスクをまとう形で人の抱える暗部をつむぎ出したように、この作者も同様の視線で人が人として存在することの哀しさを見つめます。
なおフィクションとは承知しながらも、やはりそこに作者の人格をダブらせてしまうのが読者というもの。こんな物語を創造する医師がいるなんてとてつもなく怖いなと思いつつ、同著者による医療関連のノンフィクションを読んでみたらいたって理知的(当たり前か)。でも随所に小説の内容に通ずるクールでシニカルな視線が見え隠れすることには変わりませんが…。この作者には今後も目が離せません。とくに本作は続編が期待されるような結末で次回作が待ち遠しいです。
『うつうつひでお日記』(吾妻ひでお・角川書店刊)
各賞を受賞し話題となった『失踪日記』の続編(?)。それはまさに日記。しかも氏が読んだ本と食事のネタばかり。文字量が異常に多く、漫画でありながら読むのにとんでもなく時間がかかりました。こんなのもありという同著者ならではの面目躍如といえるかも…。さらに『逃亡日記』も興味深い一冊です。

<映像部門>
『LIMIT OF LOVE 海猿』( 4/21・フジテレビ系)
―2006年フジテレビほか 伊藤英明 羽住英一郎監督
与志田が骨太と絶賛する日本映画『海猿』の完結編。多くの人のため、そして自らのため、どんな苦境に立っても決してあきらめない仙崎大輔の姿に熱い声援を贈りたくなります。
『明日の記憶』( 7/ 1・テレビ朝日系)
―2006年"明日の記憶"製作委員会 渡辺謙 堤幸彦監督
バリバリの仕事人間がある日突然…! 主役の渡辺謙が原作にほれ込んで映画化を実現させたというだけあって、その役作りはもちろんのこと全体にいい仕上がりでした。ラストはあまりにも切なくあります。
『風林火山』( 1/ 7〜12/16・NHK総合)
ホームドラマ的な色調を濃くする大河が多くなった中、ひさびさに大河本来の醍醐味を味あわせてくれる一作でした。と気をよくしたのもつかの間、今年の『篤姫』がまたホームドラマじゃないの…!
『華麗なる一族』( 1/14〜 3/18・TBSテレビ系)
フジにおける『白い巨塔』の成功を受けてという印象が見え見えの企画。実際、柳の下にどじょうは二匹おらずというかドラマ作りが散漫で、フジのそれには遠くおよばない見かけだけの作品でした。
『ハゲタカ』( 2/17〜 3/24・NHK総合)
NHKらしい硬派なドラマ。大森南朋というおそらくまだメジャーでない俳優がいきなり主役を務めたわけですが、いいです彼。今後に注目です。経済のことなどまるでわかっていない自分だけど、なんだかとても面白かったです。
『わたしたちの教科書』( 4/12〜 6/28・フジテレビ系)
「連続ドラマならではの魅力を追求した」という制作者の言葉通り、回を追うごとに意外な展開が待ち受けていて目が離せませんでした。最初はお笑いで引っ張るのかと思いきや結構シリアスな内容で…。
『私は貝になりたい』( 8/24・日本テレビ系)
かつてフランキー堺が主演したそれとは違うドラマ展開に、「おや」と思うと同時に少し救われた思いです。一昨年の小野田少尉といい、中村獅童による悲愴な軍人がはまり役でした。


2007年出版関係物故者

作家の池宮彰一郎(いけみや・しょういちろう)氏が 5月 6日、肺がんのため死去。83歳だった。( 5/ 7 読売新聞夕刊より)
東京生まれ。旧満州での従軍体験を経て、1952年から約40年、「十三人の刺客」などの映画シナリオを本名・池上金男(いけがみ・かねお)で執筆。その後小説家を志し、69歳で忠臣蔵に新解釈を打ち出した「四十七人の刺客」を発表。93年に新田次郎文学賞を受賞し脚光を浴びた。斬新な歴史観で「遁げろ家康」「本能寺」など戦国、幕末を舞台にした作品を著し人気を集め、99年には「島津奔る」で柴田錬三郎賞を受賞。しかし一部作品で司馬遼太郎作品との類似が指摘され、同作品など2作が絶版になった。


2007年放送関係物故者

クレージーキャッツのメンバーで、俳優の植木等(うえき・ひとし)氏が 3月27日、呼吸不全のため死去。80歳だった。( 3/28 読売新聞朝刊より)
三重県出身。東洋大学卒業後、ハナ肇さん率いるクレージーキャッツに参加。ハナさんや谷啓さんらとともに斬新な音楽コントを演じ、注目された。
1959年に始まった「おとなの漫画」(フジテレビ系)、61年の「シャボン玉ホリデー」(日本テレビ系)などのバラエティー番組でグループの人気が爆発。「無責任」シリーズ、「日本一」シリーズなどの映画では、高度経済成長を風刺するような軽薄なサラリーマンを演じ、60年代の日本喜劇を引っ張った。
また、映画の中で歌った「スーダラ節」「ハイそれまでョ」などが大ヒット。「分っちゃいるけどやめられない」などの流行語が生まれたほか、「お呼びでない」などのせりふで日本中から愛された。
70年代以降は演技派に転身。86年の木下恵介監督「新・喜びも悲しみも幾歳月」で日本アカデミー助演男優賞を受賞。90年代に入っても、数多くの番組やCM、映画に出演していた。93年に紫綬褒章、99年に勲四等旭日小綬章を受賞。

作詞家で作家としても活躍した阿久悠(あく・ゆう)氏が 8月 1日、尿管がんのため死去。70歳だった。( 8/ 2 読売新聞朝刊より)
兵庫県出身。明治大学卒業後、広告会社勤務を経て、放送作家として独立。1960年代半ばから、作詞家活動を始めた。
71年に尾崎紀世彦さんが歌った「また逢う日まで」のヒットで注目され、70年代後半には石川さゆりさんの「津軽海峡・冬景色」、ピンク・レディーの「ペッパー警部」、八代亜紀さんの「舟唄」など大ヒット曲を連発した。
作家としても、代表作「瀬戸内少年野球団」(79年)は第82回直木賞の候補になり、映画化もされた。97年に菊池寛賞、99年に紫綬褒章を受けている。